フロの格闘家
作品No.(7)
三者面談で、息子のタツオは、いきなり、
「おれ、フロの格闘家になる。」と言った。
わたしも先生も、驚いて声が出なかった。
「本気だから。止めても無駄だから。」タツオは、めったに見せない、真剣な顔つきで言った。
「ちょっと、あんた、何を言い出すの。フロの格闘家って、
あんな、危険なもの、じょうだんじゃないわよ。」
わたしが声を荒げると、先生が、
「まあまあ、おかあさん。」
と、止めた。
そして、タツオに向かって言った。
「なあ、サイトウ。おまえ、フロの格闘家って、
それは厳しい世界だぞ。明日からやります、って言って、
すぐになれるもんでもない。長い下積みが必要だ。
みんなが遊んでるとき、おまえだけが、
けいこ、けいこ、だぞ。その上、ケガはつきものだ。
ひょっとすると、命にかかわるかもしれない。
それでも、わかってて、やりたいんだな。」
タツオは、まっすぐ先生を見て、
「はい。やりたいんです。」
と、言った。
「どうでしょう、おかあさん。今の世の中、なにになれば、
幸せ、という保証はありません。
それなら、若いうちは、本人が納得するまで、
夢を追わせてやったらどうでしょう。
失敗するなら、若いうちにこしたことはありません。」
先生は、わたしをさとすように言った。
「・・・そうですねえ・・。」
わたしがなおも渋っていると、
「かあさん、おれ、五年、がんばりたい。お願いします。」
とタツオはわたしに頭を下げた。
わたしは折れるしかなかった。
あれから、五年。
『タツオ・ボディブラシ・サイトウ』はフロの格闘家として、
全国を渡り歩いている。
必殺わざは、顔にボディブラシ攻撃。
一瞬で、相手の口や鼻をふさぎ、ヘタをすると、
呼吸困難におとしいれる危険なわざだ。
わたしは、ケーブルテレビの格闘技チャンネルで、
タツオの試合はすべてチェックしている。
あの三者面談の日、先生は帰り際、タツオに言った。
「じつはな、サイトウ。先生も昔、フロの格闘家になろうと
思ったことがあるんだ。ボディブラシを武器にしてな・・・。
でも、せっけんですべって、頭を切ってから、こわくなってやめた。」
テレビの中ではタツオが、勝者のインタビューをうけていた。
「・・それから、先生と母に感謝します。ありがとうございました。・・・・」


あしたも、お待ちしております。!

