魔人・手乗りインコ
作品No.(372)
ひとり暮らしの老女がいた。
夫に先立たれ、子供もいない。一羽のインコがいるだけだった。
あるとき、買い物の帰りに、ひとりの老人から汚い花瓶をもらった。
たったひとつの願いを叶えてくれる魔人が入っているという。
老女に欲しいものはなかった。大それたお願いをして、人生が変わってしまうのはいやだった。
老女はひとり暮らしながらも、別にそれを苦痛に感じていなかったのだ。
庭で植木の手入れをしたり、近所のひとり暮らし仲間とごはんを食べに行ったり、老人会のバザーに出品するセーターを編んだりするのに忙しかったからだ。
老女はセーターを編みながら考えた。ふと、カゴの中のインコに目がいった。
そうだ。このピーコちゃんを手乗りにしてもらおう。
以前、一度だけ手乗りインコを飼ったことがあるが、あれはたいそうかわいらしかった。
きっとそれくらいのことなら、人生は変わらない。ささやかでも、楽しくなるのは間違いない。
老女は花瓶をテーブルの上に置くと、ゆっくり言った。
「ひとつのお願い、聞いてください。
このインコのピーコちゃんを、手乗りにしてください、魔人さん。
望みはそれだけです。よろしくお願いします。」
老女は花瓶に向かって頭を下げた。
花瓶がちょっと揺れて、中からしゅるしゅるっと大男が現れた。
「はあああ、あらまあ、えらく大きな魔人さんだこと。」
老女は胸を押さえながら魔人を見上げた。
「このピーコちゃんを手乗りにするんですね。お安い御用です。おいで、ピーコちゃん!」
魔人はそういうと、カゴを開けた。
ピーコちゃんはちょっとためらった後、ぱたぱたと飛び出して、魔人の指に止まった。
「ぐふふふふ。かわいいですねえ、ピーコちゃん。」
魔人はうれしそうにピーコちゃんをなでる。ピーコちゃんはじっと気持ちよさそうにしている。
「あら、すごいわ。ほんとに手乗りになってる!ピーコちゃん、わたしの方にもおいで。ほら。」
老女がピーコちゃんに手を差し出そうとすると、ピーコちゃんは逃げる。
「あら?どうして?ほら、いらっしゃいピーコちゃん!」
老女が近寄ると、ピーコちゃんは逃げる。
「ああ、ご主人様。ピーコちゃんは、わたしにしか手乗りになってないんですよ。
だって、『手乗りにしてください、魔人さんの』っておっしゃったでしょ?
これであなたのたったひとつの願いは叶えられました!またね、ピーコちゃん!」
魔人はピーコちゃんをカゴに戻すと、うれしそうに手を振りながら花瓶の中に戻って行った。
「ええっ!?『魔人さんの』ですって!?『魔人さん、のぞみははそれだけです。』って言ったのよ!
じゃあ、『ぞみはそれだけです』って何よ?おいっ、こらっ!
いいとこどり のひきょうものっ!もどってこーいっ!」


あしたも、お待ちしております。!

